truth
sb. I.1.a. The character of being, or disposition to be, true to a person, principle, cause, etc.; faithfulness, fidelity, loyalty, constancy, steadfast allegiance. Now rare or arch.
(ある人、信条、理想などに厳密である、あるいは厳密であろうとする性質; 忠実、貞節、誠実、忠誠、確固たる支持。現在は稀、古義)
- "Oxford English Dictionary 2nd Edition" 1989 (日本語訳は筆者)
真理がわれらを自由にする
国立国会図書館法前文とカウンター上部銘文にある「真理がわれらを自由にする」の引用元は新約聖書だ。かつては truth(真理)という語が「信仰すること」の意味を持っていた(後述)。
And ye shall know the truth, and the truth shall make you free. (King James Version)
あなたたちは真理を知り、真理はあなたたちを自由にする。 (新共同訳)
- ヨハネによる福音書 8:32
旧約聖書でも、英語訳の版によっては、たとえば次の箇所に truth という語が現れる。
a God of truth and without iniquity (King James Version)
A faithful God who does no wrong (New International Version)
真実の神で偽りなく (新共同訳)
- 申命記 32:4
この箇所については、"a God of truth" や "A faithful God" や "真実の神" を「(申命記の読者が)信仰している唯一の神」と解せることになる。この場合、唯一神であるならば当然持つべき属性である「(ただひとつであるはずの)真理」について、引き続く "without iniquity"、"who does no wrong"、"偽りなく" で補足説明していることになる。
神や支配者に対する「真理」
オックスフォード英語辞典(OED)は、現代英語の truth に対応する古英語の単語(triewþa, trywoðe)の用例として次を挙げている(逐語訳と日本語訳は筆者)。
þær dydon þeah Romane litla triewþa
逐語訳: where did though Romans little truth
日本語訳: ローマ帝国がまだほとんど支配を及ぼしていなかった(ところの)
- Ælfred(893?) Orosius (オロシウスが5世紀にラテン語で書いた歴史書のアルフレッド大王による古英語訳)
& nu halige sindon on heofenan rices mirhþe & heora ᵹemynd þurhwunað nu a to worulde for heora anrædnisse & heora trywoðe wið God.
逐語訳: and now holies are on heaven riche mirth and their mind¶ through-won‡ now on to world for their diligence and their truth with God.
日本語訳: すでに聖者たちは喜びあふれる天国に居り、神への熱心な信仰によって彼らを記憶しておく力が地上にこれからも永遠にある。
- Ælfric(1000?) On Old Testament (ギリシャ語旧約聖書(LXX)の一般庶民向け解説。著者エルフリックは宗教散文作家)
これらの用例から、truth という語は本来、(支配が及んで)世俗権力に忠実な状態、あるいは、(キリスト教・ユダヤ教の神を)信仰している状態を指していたとわかる。
つまり、古代から中世においては、今日の我々が考える truth にあたる哲学的な概念が未発達だった。近代的な「真理」の概念は、「神や支配者に対して厳密であろうとする性質」の概念を止揚することで得られたのだ。
というわけで、聖書などの古い資料を読む際には、真理とか truth が神や支配者に対する概念であることに注意が必要である。
注‡ through-won vi. to abide, continue, or remain through. (出典: OED)
注¶ mind sb. I.1. The faculty of memory. Obs. (出典: OED)
[PR]
少し昔の中野の歴史を調べている私たちのサークルで書いたエッセイです。東京・中野駅に近い、古民家があるバプテスト派の教会で、まだ洗礼を受けるでもなく教会員になるでもなく過ごした日々のあれこれや、キリスト教的な英語の話題をまとめました。よかったら買ってね☟。
◇ Orangkucing Lab Journal (猫人研究所雑誌) 別冊 2023年11月号
『エッセイ 基督教会の近くにいる日々』黒絵 魚 著
約2万6000字 Kindle 電子書籍 99円
全体の40%が「サンプルを読む」☟から無料で試し読みできます。
2024/6/11 黒絵 魚 記