中野ミニ知識: まぼろしのペデストリアンデッキ構想 ☜ 1968年築の中野区役所庁舎も中野駅直結の計画があった

ペデストリアンデッキ

高架で設置された歩行者専用通路をいう。通常、建物の入り口まで続く構造となっていて、横断歩道橋と区別される。市街地再開発事業や街区の一体的な開発において設置されることが多い。
- 株式会社不動産流通研究所編 不動産用語集「R.E.words」より

1960年代まぼろしの「歩廊」構想の痕跡

再開発はペデストリアンデッキや人工地盤が大好きだ。現在進行中の中野の再開発も、ペデストリアンデッキをJR中野駅から張り巡らし、駅周辺に林立予定の再開発ビルに客を誘導する目論見のようだ。

実は、2024年5月7日新庁舎に移り役割を終える1968年築の中野区役所庁舎も、中野駅ペデストリアンデッキで直結させる計画があった。

『中野区報』1963年2月15日号の記事「第二の副都心づくり 中野駅付近開発計画きまる」に、中野駅北側に駅前広場をつくり、「広場の上部には歩行者専用の歩廊ができ、車道を横断することなく、通行することができるようになっています」との構想が示されている。

『中野区報』1963年2月15日号(中野区立図書館デジタルアーカイブ)より。赤線は加筆

その「中野駅北口副都心計画」の図が、中野区(1973)『中野区史 昭和編3』に掲載されている👇。斜線の部分が「歩廊」だ。ペデストリアンデッキというより、むしろ汐留の人工地盤のように広い。

『中野区史 昭和編3』p. 23「中野駅北口副都心計画」図(中野区立図書館デジタルアーカイブより)

この構想があったため、設計事務所は、歩廊計画に「特に考慮」して中野区庁舎をデザインした。竣工間もないころの建築雑誌の記事で次のように明言している。

将来起こり得る外部環境の変動への対策として,区役所への積層アプローチ(2階部分へ,駅前人工地盤より直接同レベルで導入する歩路)が特に考慮された.
- 石井桂建築研究所(1969. 3)「中野区役所庁舎」, 理工図書株式会社『建築界』18(3).

1968年築中野区役所の2階南側には、まぼろしの歩廊への接続部分となるはずだった痕跡がある。

1968年築中野区役所まぼろしペデストリアンデッキ構想の痕跡。下の写真奥は建設中のJR中野駅駅ビル。東京都中野区中野4丁目、1枚目2024/5/2、2,3枚目4/23撮影

このまぼろしペデストリアンデッキ痕跡の先は、すぐ区役所前庭におりる外階段につながっている。この庁舎はまもなく解体される。「歩廊」で中野駅に直結することはついになかった。

中野区役所庁舎(左)と中野サンプラザ野村不動産のタワマンなどに再開発される予定。2020/9/30撮影

現在の中野駅周辺ペデストリアンデッキ構想

さて現在。よくある再開発の例に洩れず、中野駅から周辺のタワマンや商業ビルに向け張り巡らされることになってしまったペデストリアンデッキの概要は、2023年9月に中野区が行った「中野駅新北口駅前広場及び中野駅南口駅前広場の整備概要説明会」配布資料👇の中で示されている。

資料: 中野駅周辺のまちづくり・中野駅新北口駅前広場及び南口駅前広場について

中野駅北口の幅の広い歩道橋(跨道人道橋)。中野サンプラザ(奥)と隣の1968年築区役所を壊した跡に建設予定の野村不動産の超高層タワマンなどに向かうペデストリアンデッキができたら、その一部となる予定。2024/4/27撮影

区役所ペデストリアンデッキは今回も実現疑わしい

駅周辺の再開発タワマンや商業ビルだけでなく、1968年築庁舎の北側に2024年に完成した中野区役所新庁舎も、将来的に駅からペデストリアンデッキでつなげる計画があるという。そういって中野区は窓口を新庁舎の2階以上に置いたのだが、その通路ができる見通しは立っていない。

区は、新庁舎着工後の2022年になったら、新庁舎をデッキでつなぐ話をとたんにトーンダウンさせたので、もしかしたら庁舎を中野駅と直結させる構想は、今回も実現する気がないのかもしれない。

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少し昔の中野の歴史を調べている私たちのサークルで、2023年10月に中野駅南の中野区産業振興センターと中野バプテスト教会の土地の歴史を調べた150件超の資料と解説と、それを材料に書いた小説をまとめ冊子にした。

小説は少し昔の物語なので、1968年築庁舎よりさらに前の、1936(昭和11)年に中野郵便局の位置に建ったばかりの木造の中野区役所が登場する場面がある。よかったら買ってね☟。

Orangkucing Lab Journal 猫人研究所雑誌
第2号 2023年10月号 500円(税込) 104p ; A5
『緑瞳の黒猫と積善と:少し昔の、中野と佐久のディソナンス』通販サイト

2024/4/30 黒絵 魚

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